安田芙充央
SORA
◼️詳細内容
独特のグルーヴとフリーフォームのミックスチュア。安田芙充央の美しい全11曲。
ジャンルに安住することなく、独自の活動を続ける安田芙充央が、画期的なCDを出しました。それが本作「SORA」です。
本作では、アコースティックな音素材からのノイズ生成、音そのものを変質させるなどの技術が随所で駆使されています。
さらに安田芙充央の透明で繊細なピアノがそれらに絡みます。
その斬新さは、クラシック音楽、最先端のジャズ、Akimuseの声による人格の出現、ノイズとアコースティックの融合、
そして安田芙充央自身のピアノが溶け合うことで出現しました。
「SORA」は新たな安田芙充央の魅力が詰まった1枚です。
◼️参加ミュージシャン
All Compositions and Arrangements by Fumio Yasuda(安田芙充央)
Piano , Computer , Percussions:Fumio Yasuda (安田芙充央)
Vocals : Akimuse(アキミューズ)
Bass Clarinet:Joachim Badenhorst(ヨアヒム・バーデンホルスト)
Acoustic Bass:Nobuyoshi Ino (井野信義)
Flute, Alto Flute:Dogen Kinowaki (木ノ脇道元)
Flute:Takako Hagiwara (萩原貴子)
Strings:Asian Art Strings(アジアン・アート・ストリングス)
◼️曲目
1-SORA 空
2-Sky Lament スカイ・ラメント
3-Fitari フィターリ
4-Blady ブラディ
5-Intolerance イントレランス
6-Lost Era ロスト・エラ
7-Gig on the Stairs 階段上のギグ
8-Light in Ruins 廃墟の光
9-A Mom’s Place ママの場所
10-Mahoroba マホロバ
11-Lucrezia ルクレチア
◼️なぜ「SORA」は画期的なアルバムと言えるのか?
プロデューサー 小説家 榎本憲男
ジャンルに安住することなく、独自の活動を続ける安田芙充央が、画期的なCDを出しました。それが本作「SORA」 です。もちろん、まったく独自の技法などありえず、安田もまた伝統技法に則って創作しています。彼の技術的基盤は、大き くいえば、西洋クラシック音楽と、先鋭的なジャズでしょう(これもまた伝統の上に築かれているのですが、ここは敢えてこう 呼ばせてください)。 そして、もうひとつ安田にとって欠かすことのできないのが、映像や美術に対するヴィヴィッドな感受性です。この素養 は、フォトグラファーの荒木経惟と「アラキネマ」を舞台に、写真と音楽が拮抗し融合する空間を作り上げる際に大いに 発揮されました。僕などは安田の音楽を聴いていると、ほの暗い、黄昏時の、エロスのような妖気が漂よう生と死の淵、 例えば映画では、デヴィッド・リンチ、絵画ではエゴン・シーレやフランシス・ベーコンが思い浮かぶことがあります。 このような個性を見逃さなかったドイツ人のプロデューサーがいました。クラシックとジャズに跨がって活動し、なおかつ インスタレーションなどの現代美術と音楽との接点を見出そうとしている、ステファン・ウインターです(レコードレーベル 「ウインター&ウインター」の主宰者でもある)。ステファンに招かれ、安田はドイツに飛び、初期 ECM 作品など多くの 名 作 を 産 ん だ ド イ ツ の 老 舗 ス タ ジ オ 、バ ウ ア ー ・ ス タ ジ オ に て『 花 曲 』を 録 音 し ま す 。本 ア ル バ ム が リ リ ー ス さ れ る と 、 フランクフルター・アルゲマイネ紙が絶賛。同紙は、ドイツではよく知られた新聞で、わかりやすく表現すれば、日本の朝日 新聞や読売新聞にあたります。これらの批評をきっかけに安田は、クラシック音楽のイノベーターとして、ヨーロッパで注目 を浴びるようになり、以後、日本にいながら活動拠点をドイツに据え、ウインター&ウインターから、ピアノコンチェルト、ア コーディオンコンチェルト、エクサウディ・ヴォーカルアンサンブルなど計21枚のリーダーアルバム(このほかに参加した アルバムが11枚)を発表するに至ります。クラシック音楽の技法に立脚しながら、それを解体したり、脱構築する傾向の 強い現代音楽には向かわずに(横目で睨んではいるでしょうが)、自分の音や和音や音色を徹底的に模索するのが安田 の基本姿勢です。 さて、ジャズのほうは安田芙充央の中でどのように取り入れられ、昇華されているのでしょう。安田は、ジャズの技法で スコアを書くことには禁欲的です。しかし、実際、奏でられた楽曲を聴くと、ときおりジャズっぽい香りがふと漂うことがある。そ れは、参加しているミュージシャンが演奏するときの語り口として現れるのだと思います。その注目すべき語り部のふたり が、日本のジャズ界の大物ベーシスト井野信義、そしてベルギーで活動する新進気鋭のクラリネット奏者、ヨアヒム・バー デンホルストです。安田のディスコグラフィを覗くと、エリック・サティを独自の解釈で自分の作品に昇華した「Erik Satie: Musique D'entracte」と題するアルバムも見つかります。サティは、ドビュッシーやラヴェルと並んで、ジャズの和音やリ ズムに影響を与え、またそこからインスピレーションを得た作曲家だと目されていますが、ここに安田との共通点を見出すこ とができるような気がします。そして、そのサティ奏者として、また現代音楽のピアニストとして第一人者である高橋アキに 安田が献呈した「Mememto Mori」が、本年、老舗ジャズクラブの「エアジン」で初演されたというのも、西洋クラシック 音楽とジャズそして現代音楽をも視野に入れながら活動する安田芙充央らしい出来事だと思います。 さて、もうひとり、安田の音楽には欠かせないミュージシャンとして、ボーカリストのAkimuseも紹介しておかなければな りません。彼女の声は、ジャズでもクラシックでもない魅力を安田サウンドに与えています。彼女はなにをつけ加えているの でしょうか。それは人格(person)です。安田は、歌詞による明確な意味や物語を排除しつつも、Akimuseに声を楽器の ように奏でさせ、しかし、人の声ならではの、他の楽器にはない人格的な要素、登場人物のような色彩で染めるのです。 さらに本作では、新たにエレクトロニクスの技術が加わりました。コンピュータによるプログラミング、アコースティックな音 素材からのノイズ生成、音そのものを変質させるなどの技術が随所で駆使されています。かつて安田が参加していたの が、ノイズや自作の電気楽器を使う伝説的な前衛ジャズギタリスト 高柳昌行のグループだったことを考えれば、当然かも し れ ま せ ん 。し か し 、こ の よ う な 大 胆 な 導 入 は い ま ま で の 安 田 の 作 品 で は 見 ら れ な い も の で し た 。 冒頭で、本作は「画期的な」CDだと書きました。その斬新さは、四つの要素、クラシック音楽、最先端のジャズ、Akimuse の声による人格の出現、さらにエレクトロニクスの技法が溶け合うことで実現しました。「SORA」は新たな安田芙充央の 魅力が詰まった1枚です。そして安田のような独自の活動を続けるミュージシャンがほかに見当たらないことからあえて言 わせてもらえば、これは画期的なアルバムであると宣言したかったのです。 (文中敬称略)
◼️安田芙充央プロフィール
安田芙充央 (Fumio Yasuda) 作曲家・ピアニスト 日本、ヨーロッパを基軸に活動する作曲家・ピアニストである。
作品はバーゼル室内管弦楽団、シュトゥットガルト室内管弦楽団など海外のオーケストラや演奏家に演奏されている。
ジャズ・ピアニストとしても一流の腕を持っており、独Winter and Winterより2000年にCD「花曲(KAKYOKU)」でヨーロッパ・デビュー。「日本現代音楽の百科事典と称しても過言ではない、ピアノの第一音から始まるその音楽性と緊張感は、このCDを通して崩れることがない」と独フランクフルターアルゲマイネ紙は評し、同紙特選盤に選出される。
また、オペラの作編曲・翻案「Der Kastanienball(ディア・カスタニアンバル)」(ミュンヘン・オペラ・フェスティバル 2004にて初演) など、新しい試みにも挑戦し続けており、 クラシック、ジャズを超越した「現代で最も個性的」(独「Kieler Nachrichten」紙 )と評される。その後、チェリストのErnst Reijseger、ヴォーカリストTheo Bleckmann、アコーディオン奏者Teodoro Anzellotti などヨーロッパの第一線ミュージシャンと共演を続ける。
2014年ウイーン楽友協会大ホールにデビュー。作編曲家・ピアニストとしてウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団と共演。映像音楽はベネチア国際映画祭コンペ部門正式出品作 リー・カンション監督「Help Me Eros」などの海外の映画音楽やNHK/BSプレミアムの音楽など多数。
現在は古楽合奏団フォルマ・アンティクァ(Forma Antiqva)、Exaudi vocal ensemble、ヨアヒム・バーデンホルストらと共演、レコーディングを重ねる。2021年6月、独 Winter and Winterよりベストアルバム「My Choice」をリリース。
2023年、第29回日本プロ音楽録音賞ベストパフォーマー賞を受賞。
また、2023年5月よりヴォーカリスト吉田美奈子とジャズピアニスト石井彰とのユニット「ECHO」を開始し、2024年1月まで活動。2023年6月に独 Winter and WinterよりCD「エケケイリア」、2024年11月 CD「SORA」をリリース。